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【39話】「ミスター競馬」こと野平祐二さん

55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/09(土) 23:22:09.37 ID:2TGXsTh40
亡くなった「ミスター競馬」こと野平祐二さんほどやさしい人はいなかった。まったく分けへだてがなかった。
じつは、野平さんのことで、忘れられない思い出がある。昭和61年だから、もう15年も前のことである。
百貨店に勤める友人に頼まれて、千葉県船橋市にある百貨店で、トークショーをすることになった。
トークショーといっても、百貨店の広報部の女性と僕とで、競馬について何かしゃべるという、地味なうえにかなりアバウトな企画だった。
これにまったく人が集まらなかったのである。
無料とはいえ、若造の訳の分からないトークショーに足を運ぶほど奇特な人はいないところにもってきて、8月のものすごく暑い、平日の午後1時である。
たいがいの人は会社にいるか家にいる時間だ。
おまけに、トークショーをやった場所というのが、百貨店の5階にある紳士服売り場の片隅。百貨店のなかでも、ただでさえお客さんの少ない場所なのである。
スタートの午後1時。
30ほどの椅子を並べた会場に、お客さんは誰ひとりいなかった。
とりあえず始めましょう、始めればそのうち声を聞いてお客さんも集まってきますからということになって始めたのだが、5分ほどしてご婦人がひとりお座りになった。
どこかでお見かけしたお顔だが、さてどなたかと、しゃべりながら考えているうちに、男性がひとり会場に入ってきて、そのご婦人の隣に座った。
それでハッと分かった。なんと、野平祐二ご夫妻だったのだ。



あとで伺ったところによると、百貨店へ旅行のチケットを買いに来て、たまたま会場前を通りかかったとのこと。
それからの1時間、野平さんご夫妻は、こちらの話を聞いてくださったのである。お客さんは、ほかには最後までゼロだった。
何を話したのか、ほとんど記憶にない。本職が前に座っているのだから、相当にアガッたのだと思う。
それを見て、野平さんが助け舟を出してくださった。その場面だけはよく覚えている。
こちらに一瞬の間があったとき、タイミングよく「質問してもいいですか?」と手を挙げてくださったのだ。
「どんなことでしょう」
「競馬で儲けるにはどうしたらいいでしょうか」(笑)
「僕の予想を買わないことです」(笑)
「そんなに外れるんですか」
「ものすごく損します」
「それでも競馬をやるのはなぜですか」
「競馬のように、なくても誰も困らないものが、存在できる世の中が平和だと思うからです」
「……」
「先生。この答えでいいでしょうか」
「満点だと思います」
先生、あのお言葉一生忘れません。ご冥福を祈ります 。

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